イタリアの高等学校の先生がコロナウィルスの猛威の中で言及したことで話題となった
「いいなづけ」上・中・下 A.マンゾーニ作 平川祐弘訳 河出文庫
全3巻! と出した手を引っ込めた方、非常事態宣言の中で、読み始めたら途中でやめられないような面白さ、そして、まさしく、現在を思わせる疫病の恐怖。ぜひともチャレンジしてみてください。
原著刊行は1827年で舞台は17世紀初頭のミラノ。美しく純粋なルチーアと実直なレンツォは、いいなづけの間柄で結婚の日を迎えるが、彼女を見初めた領主ドン・ロドリーゴが横やりをいれてきた。ルチーアと母、レンツォの3人は、クリストーフォロ神父に助けで村を脱出。ルチーアと母は修道院で保護されるが、レンツォは飢饉によりパン屋襲撃の略奪騒ぎの最中のミラノに到着して騒動に巻き込まれる。ミラノには不作による飢餓が、さらにドイツ兵の侵入と同時にペスト流行の兆しが! 中巻で描かれる、飢餓を解消するためにパンの値段を下げるが、それが余分に購入しようという動きを加速し、結果的にパンが次の収穫までもたなくなっていくようすなど、なんだか最近も見たような事件が起こります。さらに下巻、ミラノ市民たちが恐怖のあまりペストを直視せず、ペストではない、似ているけれどペストまがいのものなどとごまかしながら、ついに認めざるをえなくなると、ありもしないペストをばらまく「塗屋」の噂が流れ、疑いをかけた人間を片端からリンチにかけていくようすは集団パニックとしてすさまじい。その中で、カプチン修道会の修道士たちが献身的に救済に当たるようす、それとは対照的に、ここが稼ぎ時と死体収容人たちがこのどさくさの中で稼ぎまくろうとする姿がまたすごい。もちろん、二人の純愛の行方も目を離せません。これを読んでいると、人間に進歩はないのか? とガッカリしそうになりますが、過去に学び、少しでも自分ができることをしていきたいと思います。