門井慶喜著 講談社 2017
宮沢賢治の父政次郎の視点から、理解不能な息子の子育てを描いた作品。厳格であらねばと思いつつ、わが子をかわいがらずにはいられない父。父自身は、聡明でありながら進学ができず、家業を継ぎ、質屋であることを憎まれながらも稼いだ金で、子どもたちに自由な生活を与えた。金に困る経験をせず、人造宝石を作るなど山師のような夢想をしつつも現実の商売はできない賢治。トシの死という経験を通してやっと現実に向かい始めるが、最終的には病で若くして亡くなる。賢治の生前は認められなかったものの、死後、彼が高く評価される姿を見られたことは父にはせめてもだったのでは? あきらかに非常識な息子に振り回されながらも、金銭面でも、議論でも受けてたった父はあっぱれ! 封建的な価値観が崩れる中で、父としてどうすればいいのか戸惑う姿は、ひょっとして現在のイクメンたちの迷いにも寄り添ってくれるものかも(笑)