本」を通じて「人」と出会う「まちの図書館」を語る
講師:礒井純充氏(一般社団法人まちライブラリー代表理事) 

〇日時 2025年7月2日(水)10:15~12:00
〇場所 中央図書館2階 視聴覚室   〇参加者:15名

[講座要旨]

森ビルで教育事業に従事していました。1987年からは赤坂アークヒルズ、2003年からは六本木ヒルズで教育事業やサテライト・キャンパスや24時間オープンのライブラリーなどに関わっていましたが、だんだん収益性を求められるようになり、ビジネスに傾斜していきます。すると顔が見える人間関係を築くのが難しくなっていきました。そのころ、限界集落を歩き回っている20代の友廣裕一さんと出会います。彼は村の家に泊めてもらい、自分のできることを手伝う。彼の姿を見て、名刺で付き合う仕事ではなく、顔の見える人間関係を取り戻すことを考えるようになりました。多数が集まっても、終わったらバラバラになるのではなく、その後も関係が継続することを考えました。

まちライブラリーは、街のあちらこちらにあって、本のある環境を提供するだけでなく、そこでコミュニケーションが生まれることを目的としています。例えば、本に「メッセージカード」をはさんでおいて、読んだ人が、そこに書き加えていく仕掛けを作りました。また、私が大阪の実家でまちライブラリーを始めた時は、「大阪人はうまいものを食わさんと来ない」と言われたので『本とバルの日』を企画しました。カフェ、お寺、公園、歯医者、個人の家など、さまざまなところで「まちライブラリー」が始まっていますが、これはお雑煮みたいなものだと思います。地域ごと、いや、家ごとにいろいろな味があるように多様で、黒カビのようにじわじわと広がっています。

大阪府立大学(現、大阪公立大学)のまちライブラリーは蔵書0冊からはじめました。市民がつくる図書館と位置づけたのですが、「産経新聞」が「持ち寄るのは心」という記事を書いてくれたこともあり、蔵書はどんどん増えていきました。まちライブラリーで行っている企画はスタッフではなく、利用者が企画を持ち込んでくるのです。

例えば、「まちライブラリー@もりのみやキューズモール」では、高校生がゲストに乃木坂46卒業生の伊藤寧々さんをお迎えして、不登校トークイベントを企画して実現させるという事もありました。この他にも北海道の「まちライブラリー@ちとせ」は、場所が変わりながらも、市民からの要望で続いています。自習する中高生が多いのですが、「自習手伝います」というポスターを掲げた大学生が現れたり、「まちライブラリー@MUFG PARK」では子どもたち自身がまちライブラリーの企画を考える「こどもザポーター会議」なども生まれています。

公共図書館にはない自由度の高さ、書店にないコミュニティ形成がまちライブラリーの魅力です。江戸時代に藩校は276校ありましたが、自然発生した寺子屋は15,560もあったと言われています。庶民の間で必要だから生まれた寺子屋のような存在、利用者同士がつながり、マイプレイスを見つけられる場所が重要で、それがまちライブラリーなのです。

まちライブラリーにももちろん課題があります。うまくいっていると感じる人が2.5割、どちらともいえないという人が3割、うまくいっていないと感じる人が4割です。つまずきやすい人の特徴には、「一人で運営している」「場づくりを目指している」「行政や企業が絡んでいて成果を求められている」「制度や仕組みにこだわる」といった傾向があります。

一方、うまくいっているライブラリーは、「数人のグループでやっている」「場づくりをめざしていない」「趣味の本などこだわっている」「課題に挑戦している」、など、楽しんで運営しています。

日本語で「公共」は英語で「public」ですが、語源はラテン語の 「publicus」で、「人々」という意味です。人々が集い、主体的に活動に参画し、お互いの顔が見える関係が求められているのではないでしょうか。