◇浦安市図書館友の会講座◇
「デジタルメディアの危険な話」 講師:坪井賢一氏(編集者)
〇日時:2022年6月14日(火) 午前10:00~12:00
〇場所:浦安市立中央図書館1F ワークスペース
〇参加者:20名(講師を入れて21名)
【内容】
出版界にいる中でインターネットが急速に普及していくのを目撃した体験を踏まえ、もはやそれなしでは生きていけない社会の中で、情報をどのように受け止めたら良いかを語っていただいた。
意外なことに出版物(書籍・雑誌)の売上げが下げ止まり、2019年より3年連続して書籍が増加しています(紙の雑誌は減少)。出版業界ではコロナによる巣ごもり需要の可能性だと指摘されていますが、コロナ前の2019年から上昇しています。2022年の結果が出るまではコロナの影響ははっきりしませんが、今年前半は伸び率が鈍化しているそうです。。
ネット依存は加速していますが、あらゆる市場の「需要」と「供給」の間をつなぐプラットフォームとしてGAFA(Gグーグル、Aアップル、Fフェイスブック、Aアマゾン)など、アメリカのビッグテック(巨大テクノロジー企業)による情報独占が進んでいます。
プラットフォームのサイトは、よく利用されることでさらに利便性が向上しているわけですが、これを経済学では「ネットワーク効果」といいます。アマゾンなどの「おすすめ」機能のように、個人の購入履歴の蓄積を瞬時に解析して、その人の欲望をコントロールするように働きかけます。とても便利ではありますが、人間の心理もコントロールするメカニズムであることを知っておくべきでしょう。
ビッグテックの強大な市場支配が進む中、EU(ヨーロッパ連合)は立法化して規制の強化を進めています。違法コンテンツや、個人を追いかけまわすターゲット広告の規制など、違反すると最大で売り上げの6%を罰金として徴収されます。残念ながら日米の規制はまだ非常に不十分です。
SNS時代とは、記者(ライター)の教育をまったく受けていないライターが増加している時代なのです。オーディエンス(読者・視聴者)からすると、ライターの資質や知識に問題があってもチェックは不可能ですから、まともなライターのまともな記事かどうかはさっぱりわかりません。しかし、チェックできていない嘘の情報(フェイクニュース)でもリツイートなどで一瞬にして広がります。
伝統的な新聞・雑誌では、どんな短い記事でも5,6回は確認のチェックが入ります。それでもミスをすることはあるんです。すべてとは言いませんがSNSの記事は事実関係をだれも検証していません。うのみにせずに、「これは本当のことか?」と考え、チェックするくせをつけましょう。
無料のサービス(例えばYouTube)には頻繁に広告が出ます。この広告はミリ秒単位でアクセスされた瞬間に入札され、プラットフォーム企業の巨大な収益になっています。もちろんメディアや代理店に利益は分配されるわけですが、圧倒的にプラットフォーマーが利益を集めます。
なかには偽情報なのか広告なのか、あるいは普通の記事なのか区別しにくいことがありますよね。これが巧妙なデジタル詐欺の温床になっています。
一方、SNSにおける誹謗中傷で自殺する事件が後を絶ちませんが、昨日(6/13)ようやく侮辱罪が国会で成立しましたから、ある程度は抑止されるでしょう。重要なのは、発信するときはデジタル時代のジャーナリズムの基本を知り、準拠することです。SNS時代のジャーナリズムについて、今後の方向としてヒントとなる原則がこの本に書かれています。
『メディアの未来』ジャック・アタリ著 プレジデント社2021.9 ISBN978-4-8334-2429-5
アタリは本書で、大学のあらゆる学部の必修科目として教えるべきデジタル時代のジャーナリズム10の原則を提示しています(1.事実と虚偽を区別する。意見は事実とは違う。謙虚に誠実に。に始まる10項目)。
アメリカでは危機に陥った『ワシントン・ポスト』が再生しました。アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスが資本を出して救済したのですが、その後、電子版の部数を大幅に増やし、経営は大きく好転しています。どうして電子版の部数を急増させたのか、当時の編集幹部によると、ポイントは「伝統にとらわれず、スマホですべての情報を得るデジタル時代を認識する。しかし、ジャーナリズムの理念、原則、目的、品質を維持することにこだわった」ということです。
SNSが普及し、すべての人がライターなのです。ジャーナリズムの原則の品質をすべての人が知っておくべきではないでしょうか。それによって無軌道無原則な言葉が氾濫している現状は改善されると考えます。