本にかかわる仕事を知りたい 編集者に職業インタビュー(開催報告)
日時:2021年8月24日(火) 10:00~11:15
講師:坪井賢一氏(編集者)
開催:Zoom
参加者:2名(大学2年・中学3年)。 講師・司会を入れて全4名
(当日の様子)
講師紹介の後、参加者の自己紹介・聞きたいことを述べてもらい、その後講師が、編集者を志したきっかけ、編集者の仕事、質問への回答を語ってくれた。
質問:・出版業は、現在不況だと言われているがどういう状況か?
・電子書籍の現状が知りたい
講師のおはなし
〇なぜ編集者になったか?
中学の3年間は市原市にいました。まだ市立図書館はなく、学校図書館には大人の本が多かったので、お小遣いでも買いやすい岩波新書や講談社のブルーバックスを読み慣れていました。
高校1年の時、社会科の教師から試験の解答を褒められ(岩波新書で得た知識が役立った)るが、同時にその教師からもっと多様な本を読むと良いと勧められました。この先生は元有斐閣(法律系有名出版社)の編集者で、ここで初めて編集という仕事の存在に気が付き、興味を持つようになりました。また、高校2年でニクソン・ショック(アメリカが金とドルの交換を停止)という世界史的な事件があったことから経済に興味を持つようになり、理系志望から経済学部へ切り替え、経済系の編集者になろうと決めたんです。
〇編集という仕事
編集者は、一人で本を作っているわけではない。校正や本のデザイン、宣伝などいろいろな部門があります。企画を建て、著者を選び、内容を確認してきちんと伝わる日本語に仕上げ、どのようにすれば売れるか、全体を調整して総合的に制作を進行していくのが編集者の仕事です。
週刊誌の編集長の場合は、数チーム、計50人くらいの記者や編集者をマネジメントします。新聞ですと1000人Kら2000人を束ねて業務が進行します。
〇電子書籍の現状と出版社の現在
現在、書籍は紙の印刷物とデジタルを同時発売などで行っていますが、デジタルは、ふつうの書籍はかなり売れても電子の比率は2割程度。しかしコミック部門では8割がデジタルで、コミックを多く出版している出版社は収益の半分以上がデジタルです。
出版物(雑誌・書籍の売り上げ)の頂点は1996年で、約2兆6000億円、出版社は4000社ありました。現在は、売り上げは2020年に1兆2200億円と、半分以下で、出版社は3000社ほどに減っています。
しかし、2年ほど前より、電子書籍の売り上げが伸び始め、電子書籍+紙書籍の売り上げが2020年に1兆6200億円と、2年連続で前年を上回りました。ただし、利益率の観点から言うと苦しい。
ジャンルでいうとダイヤモンド社ではビジネス書、文芸書、児童書などの売り上げは伸びています。現在は売れる本は100万部単位で売れますが、売れない本は全く売れないという両極端の傾向があります。
電子書籍が先行するアメリカを見ると、電子書籍の販売は、全体の25%で頭打ちになっています。
〇SNSとの違い
現在さまざまなSNS情報が飛び交っていますが、問題のある情報、デマも多い。出版社や新聞社では、長い間、編集者が出版物の内容について法律上・倫理・道徳的な問題がないか検証してリリースしますが、ネットのSNSには編集者がいないため、多くの危険をはらんでいます。
また、ウェブのニュースについては、
Google 独自ニュースを発信せず、すでに出ている(検証されている)ニュース
を転載している。
Yahoo 紙の編集者が移籍して独自ニュースの発信をしている情報もあります。ただし、広告の入れ方がニュースと紛らわしいという問題がある。
〇新聞の力
新聞は、見出しをざっと見ていくだけで、現在社会で起こっている問題についての全体がつかめる。1ページに4,5本のニュースを入れる編集者の経験とセンスを見てください。複数の新聞を見ることが重要なので、図書館で複数紙を見比べてみるとよい。10分もあればできます。
〇出版社の現状
出版業界は、もともと各社の人数が少ないため、生産性は比較的高い。私が就職した40年前は、各社に校正・カメラマン・活版製作などの専門家が社員としていたが、90年代からはフリーランスが請け負うことが多いです。法人としては身軽になっています。デジタル化が進み、職種の変化も大きいです。
ネットの影響は書店や取次のダメージが大きい。全国で同じ値段で販売するための仕組みの維持のために、物流の改革が始まっています。
〇デジタル出版
既存の出版社が電子書籍を出す場合は、紙媒体と同時に製作することで省力化し、内容の検証コストも下げている。
デジタルのみの媒体の成功例は、News Picks(東洋経済やダイヤモンド社の編集者が数年前に立ち上げ、会員制有料)、やnote(ダイヤモンド社出身の編集者が設立) があります。
〇まとめ
編集者の役割は、法的に、そしてモラル上の検証をして情報を提供することで、真偽がわからないSNS情報が飛び交う中で、編集者の重要性は変わりません。
質疑
Q 出版界でフリーランスが増えているというのは、不安定な身分が増えているのではないか?
A そうした面もあるかもしれないが、フリーになることで、優秀な編集者は、社に勤めていた時には得られなかった高額の報酬を得る道が開かれたところもあります。ただ、仕事の内容や制作のプロセスを知るためにも、一度は出版社などに勤めてからフリーになることを勧めたいですね。
以上、最後にコロナ終息後、改めて講師が勤めていたダイヤモンド社の若手社員などとも話せる機会も設けられるとよいとのお話もあって終了しました。